さて、双極性障害と診断されたらすぐやったほうがいいことの2回目です。
今回は、「睡眠覚醒リズム表」をつけてもらいたいと思っています。
どういったものかというと、これです。
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/shiryo/data/suimin_kakusei_rhythm.pdf
これを毎日必ず記入してください。
朝起きたらすぐ、そして寝る前に、日中の行動を思い出して、記入することを続けてください。
なぜこれをやったほうがいいかというと、双極性障害の患者さんは睡眠に障害が起きやすいからです。
うつ期は死んだように眠り続けて、躁になると反対にまるで眠らずに活動し続ける、それが双極性障害患者にありがちな状態です。
これを繰り返していると、いつまでも治らないのはもちろんですが、自分で自分をコントロールできない状態が長く続くということです。
私もうつや躁をコントロールできなくて、長く苦しみました。
自分で自分を制御できないというのは、どうしようもない苦しみが永遠に続くということです。
それを、まずは可視化しようというのがこの取り組みです。
まず、睡眠リズムを可視化します。
それによってわかるのは、自分がどれだけ眠っているかということです。
いつ眠っていつ起きているのか、これによってうつや躁の状態を判断できます。
「うつの時は睡眠が長くなる」
とか
「入眠に時間がかかっている」
とか
「中途覚醒を繰り返している」
などが可視化できるようになります。
また、躁では
「眠る時間が極端に少ない」
とか
「朝早く起きている」
とか
「昼寝をしていない」
などが分かるようになります。
これを見るだけで、まず自分の今の状態が確認できるのです。
自分では【躁】の状態を自覚するのは相当難しいことです。
なにせ、どんなに周りから見ておかしくても、本人は調子がいいくらいにしか思っていません。
でも、それが睡眠覚醒リズム表をつけることで一発で変化がわかります。
躁状態は、その瞬間に把握することが難しいため、あとで振り返った時に「あの時は躁だった」と気づく場合が多いです。
その気づきを与えてくれる一つが睡眠リズム表だったりもします。
ですので、あとで振り返るということも含めて、記入を続けておく必要があるのです。
また、うつの入り口もわかります。
うつ期に完全に入ってしまえば「ああ、うつだ」と自覚しますが、難しいのはいつでも鬱や躁になりかかっている時です。
「少し眠りが浅くなってる」
だとか
「起きるまでに時間がかかるようになっている」
だとか、急激ではない変化も可視化することで気づけるケースがあります。
自分では気づけないような微妙な変化も、毎日表を記入することで分かるようになってくるのです。
記入することの利点はほかにもあります。
それは、『自分で睡眠をコントロールできるようになる』ということです。
双極性障害には睡眠が大きく関わっています。
それを自分でコントロールしてしまえば、症状も抑えられるとも考えられるわけです。
睡眠覚醒リズム表をつけることで可視化した現在の自分の状態を、強制的に変化させます。
たとえば、うつ状態に入り始めていることがわかったならば、それを無理やりにでも鬱にならないようにするわけです。
具体的には、まず起床をコントロールします。
朝決まった時間に絶対に起きるのです。絶対です。
そして、昼間はなるべく寝ません。昼寝をしても午後3時までに済ませ、時間も20~30分にとどめるようにします。
夜は、眠くなるまでベッドにはいきません。眠気を感じて初めて寝ます。
これを繰り返すことで、自然と睡眠リズムが整い、初期の鬱状態でしたら抜け出せるようになると思います。
上記の方法は、実は『概日リズム睡眠障害』の治療で行われていることです。
なぜこの方法をお勧めするのかというと、睡眠リズムが双極性障害に大きく影響するといいました。
つまり、双極性障害患者は【概日リズム】が乱れまくっているのです。
概日リズムとは、朝起きてから寝るまでの一定のサイクルのことを指します。
これが乱れるというのは、例えば
- 外国旅行の時差移動
- 夜勤・日勤の交代ローテーション
などが挙げられます。
もうおわかりですね。双極性障害というのは、躁と鬱による両極端な睡眠サイクルで、結果的にこの概日リズムを乱しているのです。
双極性障害患者は『概日リズム睡眠障害患者』と言ってもいいくらいなのです。
双極性障害患者は概日リズムの乱れに弱いことは知られていますが、なぜ弱いのかというのはまだはっきりしていません。本人の意思の及ばない、「神経細胞レベル以下」の弱さがあると思われています。
ですので、睡眠リズムを整える必要性があることは、分かっていただけたでしょうか。
その治療には、前回紹介した『光療法』も有効です。
起床時に5000~10000ルクスの光を浴びることで、生体リズムを整えることができます。
不眠が病気と密接に関わりがあることは以前から言われていました。
うつ病患者の約9割で不眠症状がみられます。不眠がうつ病の発症に先駆けて出現する、つまり不眠はうつ状態の初期兆候なのです。
また、うつ病の大部分が治っても不眠症状だけが残る場合も多く、不眠を放置するとうつ病の再発リスクも高くなります。
慢性不眠はうつ病の発症リスクを2~3倍、平均で2,1倍に上昇させます。慢性不眠があるうつ病患者さんでは、自殺企図が多いことも明らかになっているので要注意なのです。
睡眠状態を把握しないことが、どれだけリスクの高いことか、おわかりいただけたでしょうか。
実際私も、うつ状態を発症する前には必ず不眠症状がありました。それを把握できたのも表を記入していたおかげです。あとで振り返ることもできるからです。
慢性不眠のように睡眠状態が極端に悪化していると、一般的な快眠方法だけではどうにかできるものではないそうですが、あらゆる手を尽くすという意味で、自分の状態を把握する必要はあります。
また、自分で把握するだけではなく、家族や主治医にもその記録を見せるとよいでしょう。
診察時にもっていけば、主治医にも前回の診察からの今回までの間にどんな状態だったのかが分かって、治療の助けになります。
極端に睡眠状態が悪化していることが分かれば、睡眠薬を処方するなど、その場で対処できることも出てくるでしょう。
私が睡眠覚醒リズム表をつけるようになったのは、実はこの半年くらいです。ですが、遅かった、もっと初期にやっておけばよかったと後悔しました。
存在は知っていたのですが、正直そこまでする必要ない、面倒くさいと思っていました。
しかし、一時うつと躁が激しくなった時期があり、これは睡眠状態をきちんと把握する必要があると自分で思ったこともあり、表をつけるようになりました。
そのようにしたら、確かに次の診察までにどんな状態だったのか、把握することが出来ましたし、実際その次のうつ状態を初期の段階で自覚して食い止めることが出来ました。これもすべて、睡眠覚醒リズム表をつけていた効果だと思います。
また、睡眠についてよく勉強したことで、初期で食い止めるための方法や、自分でできる快眠法が分かったこともよかったです。
これらを知っているか知らないかだけでも、双極性障害との付き合い方が変わってくると思います。
睡眠についてより詳しく知りたい方は、こちらの本をお勧めします。
私が書いた概日リズム睡眠障害の対策などは、こちらを読んで理解しました。
睡眠が如何に健康に影響するかということを知りたい方にお勧めします。
睡眠リズムの情報はもちろんですが、普通に読み物として面白い本でした。
概日リズムがずれることで、健康リスクが著しく上がることもこの本を読むとよくわかります。
ですので、双極性障害患者さんはもちろん、たとえ今睡眠に悩んでいなくても健康であっても、これを知っているとさらに健康を維持しようと思うはずです。
周りに概日リズムを崩しやすい職業の方(工場や看護師など、夜勤と日勤が入れ替わる仕事の方、出張が多く時差ボケを繰り返している方)がいらっしゃったら、読むことを勧めてあげてください。
睡眠リズムが崩れている方、崩しやすい方には特に読むことをお勧めしたい本です。
睡眠覚醒リズム表をつけるということは、「知っているか・知らないか」「やっているか・やらないか」で大きく結果が変わってきます。
私のように「面倒くさい」という理由でやらないと、あとで大きなしっぺ返しをくらうことになります。
皆さんには、そのようになってほしくないので、このような方法をお勧めしています。
これを読んだ人には全員今すぐやってもらいたいです。
また、家族や友人など本人以外の方がこれを読んでいたら、すぐにでも双極性障害患者さん本人にやらせてください。
実態を把握しておいて損することは何もないです。絶対に本人のためになります。
さて、次回も双極性障害と診断されたらすぐにやってほうがいいことを書いていこうと思います。